東大合格「開成を抜くなら渋幕」 グローバル人材にこだわる新興校、なぜ急伸?

 

 

東京大学など国内外の難関大学の合格実績が急激に伸びている中高一貫の私立校、渋谷教育学園幕張中学校・高等学校(渋幕、千葉市)。1983年に千葉の幕張新都心に開校した新興校は2012年に東大合格ベスト10、16年からはベスト5に躍進し、17年の現役合格者数では名門の麻布高校を超えた。くしくも渋幕を創ったのは麻布、東大出身の田村哲夫校長(81)だ。ハーバード大学など米国の名門大学の合格でも全国の先頭を走り、グローバル人材の育成校として注目を集める。千葉市の渋幕を訪ねた。

 

 

■千葉都民の街に誕生

 JR京葉線の海浜幕張駅から徒歩10分のところにある渋幕。この地区には幕張メッセを中心にイオン本社や日本IBMなど大企業の高層オフィスが立ち並ぶ。人工都市のため街並みはちょっと殺風景で、海が近いとあって時折強い潮風が吹く。JR東京駅まで電車で30~40分とあって、周辺住民の多くが「千葉都民」だ。


 渋谷教育学園にはもう一つ、東京の繁華街に中高一貫校がある。渋谷教育学園渋谷中学高等学校(渋渋)だ。もともとは女子校だったが、田村校長が父親から引き継いで、男女共学の渋渋として1996年に再スタート、都内有数の進学校に生まれ変わった。両校を合わせた東大合格者数は17年で計103人、教育界では「渋幕・渋渋の奇跡」といわれる。
 渋幕の敷地面積は約6万5千平方メートル、東京の繁華街にある渋渋の何倍のもの規模だ。広々とした芝生のグラウンド、2つの体育館、温水プール棟もあり施設が充実している。全く環境が異なる両校はなぜこれほど躍進できたのか。


 両校の校長を兼任する田村校長は、まもなく82歳になる。「いや、もう年です。ただ、両校合わせて年70回、校長講話をやっています。明るい生徒たちと話していると楽しい。これで元気が出ます」と笑う。渋谷と千葉を車で往復しながら、生徒の育成にあたっている。田村校長は、「郊外の渋幕、都心にある渋渋、この両校がそれぞれに切磋琢磨(せっさたくま)しながら、教育力を高め、進学実績などを上げてきた」と話す。
 両校は物理的には離れているが、ライバルであると同時にイベントなどを共同開催し、生徒同士も協力し合っている。

 

 

 

■渋幕と渋渋、国際イベントを共催 海外の24校が参加

 18年夏には世界のトップクラスの高校生らが集う「Water is Life (ウォーター・イズ・ライフ)」という国際イベントを両校で開催する。海外から24校、120人以上の生徒が訪日する。日本からも7校が参加。水をテーマにしたイベントで、トヨタ自動車など日本企業も協力する。「水のリサイクル技術などを企業側に説明してもらいながら、生徒たちが討論し合う場です。これをすべて英語で行います。日本語は使いません」と田村校長は話す。


 「渋幕の目標は教養豊かなグローバル人材を育てることです。生徒たちは世界の名門大学を目指しています。東大はその選択肢の一つです」と語る田村校長。あえて東大合格を目標に掲げず、海外の名門大学を目指すため、帰国生徒も積極的に受け入れた。80年代には東大合格を目標に掲げる新興校が関東にもいくつか誕生したが、渋幕以外はいずれも伸び悩む。田村校長は「東大合格が目標では、開成高校など伝統のあるブランド校にはかなわない」という。


 千葉県は県立千葉高校をトップとする公立王国と呼ばれた。しかし、教育に熱心で、意識が高い「千葉都民」が急増するなか、渋幕の存在は生徒や保護者の心をとらえた。日本マイクロソフト社長の平野拓也氏は渋幕の4期生。母親は米国人で千葉の公立中学へ通っていたが、「自由でオープンな雰囲気があり、積極的に帰国生や交換留学生を受け入れるなど、常に外を向いていた」と自ら渋幕を選んだ。


 入学後、「学校でダンスパティーをやったら面白いのではと提案したら、学校側は費用まで負担してくれた」と振り返る。その後、米国の大学に進学してマイクロソフトに入社した。田村校長は「ダイバーシティー(多様)な環境をつくると、自然と、いい効果が生まれる」という。

 

 

■音楽、美術 アートも重視

 グローバル人材を育てるため、田村校長は、自分で調べ、自分で考える「自調自考」を基本理念に「教養」を高める教育を実践。音楽や美術など芸術分野にも力を入れてきた。
 「生徒は6年間で、必ず何か1つの楽器をやることになっています」と田村校長。音楽フロアの収納室にはバイオリンなどの楽器がズラリと並ぶ。ピアノの専用練習場もある。同じフロアには生徒が自ら予約しないととれない、2つの専用室もある。中を見ると、ドラムなどがあり、バンドの練習場になっていた。田村校長は「防音設備に費用もかかったが、バンドをやりたいという生徒が多かったので」と話す。


 進学校なのに、なぜ芸術分野の教育にも積極的なのか。田村校長は「アートをしっかりやらないと、未来のリーダーにはなれません。欧米では芸術をよく理解しているリーダーが少なくないのです。リベラル・アーツ(教養)の終着の科目は音楽でしょう」と語る。
 理数系の施設はもっと充実している。理科棟には化学、生物、物理地学のフロアがあり、それぞれ2つの実験室がある。渋幕は、15年には「科学の甲子園」全国大会で優勝した。化学の担当教員の岩田久道先生は、「実験室には大学も驚くような設備もあります。有害気体を排出するドラフトも備えており、健康面にも留意しています。意外とこんな設備は大学にもないんですよ」という。コンピューター室などIT(情報技術)関連の設備も充実している。


 図書館には6万冊の蔵書があり、貴重な「東洋文庫」もある。教養を磨くツールが盛りだくさんだ。その仕上げとして、高1~2年生の生徒全員が1年以上を費やして「自調自考論文」を書く。テーマは自然科学から社会科学、国際関係、芸術など自由だ。悪戦苦闘するうちに論述力が磨かれる。
 グラウンドでは生徒たちが様々な競技に汗を流している。サッカー部は全国大会の出場実績がある。テニスも強豪校で、校内に3面のコートがあり、更に近隣に8面を新設した。「テニスの人気が高くて」と田村校長。経営も担う理事長でもあるが、とにかく生徒のニーズによく応えてくれる校長だ。


 渋幕の施設や伸び伸びした生徒の表情を見る限り、「急伸した受験校」というイメージはない。だが、00年以降、進学実績はグイグイ伸びて、今や男女共学の進学校としては全国トップの実績だ。

 

 

 

■気になるのは海外大の合格実績

 渋幕高校の1学年の定員は335人。17年の合格実績は、東大78人(うち現役は61人)、京大11人、東京工業大学14人、一橋大学21人。国公立大学医学部医学科37人。ただ、田村校長が気にするのは「海外大学の合格状況です。今、うちのトップ層はみんなハーバード大など米欧の大学を志望しています。受験は10~11月にスタートし、最終的に合否が確定するのは次の年の6~7月と長丁場の戦いです。毎年、20~30人が海外大学に合格し10人前後の生徒が実際に進学しています」という。


 海外大学の現役合格数(15~17年の合計)は72人。ハーバード大、プリンストン大、エール大など世界のランキング上位の大学も少なくない。
 英教育専門誌タイムズ・ハイヤー・エデュケーション(THE)によると、17年の世界大学ランキングで、東大は46位(前年は39位)で過去最低の順位になった。田村校長は「東大はいい大学。実際の実力は10位台でしょう。ただ、グローバルな人材になるにはもう少し世界を意識する必要はある」と強調する。

 

 

■卒業者は多彩、人気アナにプロサッカー選手も

 渋幕は創立してまだ30年あまり。卒業生には大企業の経営者はまだ少ないが、活躍する人材は多彩だ。田中マルクス闘莉王氏などプロサッカーやプロテニス選手を輩出しており、人気アナウンサーの水卜麻美氏や皆藤愛子氏も卒業生だ。渋幕を卒業後、エール大に進学して、三井物産に入社し、後に落語家に転じた立川志の春氏などユニークなキャリアの卒業生は少なくない。


 東大の現役合格者で開成高校、灘高校、筑波大学付属駒場高校に次ぐ4位にまで躍進した渋幕。「東大合格36年連続トップの開成を抜けるとしたら、それは渋幕」(大手進学塾幹部)と受験界でいわれているが、「あくまで東大は選択肢の一つ」と意に介さない田村校長。グローバル人材の育成になおまい進しそうだ。
(代慶達也)

 

 

日経スタイル

2018.2.2  転載

 

 

 

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