大学付属校への幻想…「のんびり6年間」とはいかない?



「進学レーダー」編集長 井上 修

 「(わが子には)10代の多感な時期を、受験に煩わされることなく、伸び伸びと過ごしてほしい」。そうした保護者の願いを背景に、根強い人気を誇る中高一貫校。さらに、大学の付属系ともなると、中高大の10年間、受験なしで過ごすことができる。私学なので学費は余計にかかるが、受験に備えての塾通い(費用)は不要なので、その分、だいぶ相殺できる。なんだか、すごく魅力的に見える大学系付属校なのだが、実は意外な落とし穴が……。私学の学校事情に詳しい中学受験誌「進学レーダー」編集長の井上修氏が、注意を喚起している。



大学への内部進学率が7割以上

  • 慶應義塾普通部。ここは中学3年間のキャンパス
    慶應義塾普通部。ここは中学3年間のキャンパス

 中学受験で志望校を決めようと思ったとき、多くの保護者の脳裏にすぐ浮かぶのは大学名が冠された付属の私立校だろう。特に、早稲田、慶應義塾、いわゆるMARCHと呼ばれる明治、青山学院、立教、中央、法政などの大学系の学校は高い人気を誇っている。

 例をあげれば、慶應義塾中等部の2015年入試での倍率は男子で5.9倍、女子で8.1倍だし、実際の難易度も早稲田慶應系だと日能研のR4(合格可能性80%)偏差値で60を下回らない。ちなみに、慶應義塾中等部の男子は64、女子は68で、女子では女子学院と同じ偏差値となる。また、これらの付属校は、概して大学への内部進学率が7割以上と高い(他大学進学志向が強い早稲田中高などは例外)。

 このような内部進学率の高い付属校に対して、その志望理由を保護者にうかがうとしばしば返ってくるのが、「一度入学してしまえば、大学まで入試なしで進学できるので楽だ」とか「うちの子どもは勉強しないので、伸び伸びとした付属校に入れたいんです」などという理由だ。実はここに、付属校に対しての、保護者サイドの幻想もしくは勘違いがあり、この理由はまったく現実に即していない。




大学で中心になって活躍する人材を育成

 まず、各大学法人が、なぜ付属の中学・高校を有しているかを考えてみたい。単なる入学生の確保、つまり大学定員の充足という理由だけではないのだ。それが理由ならば、大学広報などを充実させれば事足りることも多い。では、わざわざ付属校をつくり、時間と手間と費用をかけて中高大一貫教育を行うのはなぜか。

 実は、付属の中学・高校で育った生徒に大学で中心となって活躍してもらいたいからなのだ。付属中高から内進してきた生徒たちこそ、その学校で長く学び各私学の理念をもっとも深く体得しているはずである。そんな彼らにこそ、私学の旗手となり、がんばってもらいたいのだ。

 そのために、各付属校では、大学に進学した際に必要とされる力を中学・高校でじっくり育てるプログラムを実践している。具体例を揚げると、「語学教育(特に英語)の充実」「論文作成能力の育成」「豊富な実験・調査の展開」「行事やクラブを通してのコミュニケーション力の育成」などだろう。ゆえに、英語など語学の資格取得、多くのリポート作成、そして通常の各教科の課題など、生徒たちは付属校でとても忙しい日々を送ることになる。

 さらに、とくに付属色の強い(つまり内部進学率の高い)大学系校では、付属であることを生かして現在、高大連携、いや中高大連携教育を推進している。具体的には、大学の教員による高校での授業(大学の単位に認定してくれる学校もある)、大学図書館の共用などだ。

 つまり、大学までエスカレーター式なのでのんびりと6年間、いや10年間を送れると思ったら大間違いなのである。



高校3年になれば確かに進学できるが…

  • 人気の早稲田大学高等学院
    人気の早稲田大学高等学院

 もっと知られていないことは進級制度の厳しさだ。つまり落第が思った以上に多いのだ。特に早稲田、慶應系の中高ではそれが顕著である。

 内部進学率の高い付属校のなかでも、早稲田・慶應系(早稲田中高をのぞいて)は、9割以上が併設大学に進学する。保護者のみなさんにとってはこれは相当な魅力となるが、私は保護者会などでは「あくまでも『高校3年になれたとしたら』9割なんですよ」とお話している。

 というのも、先にも指摘したように、早稲田、慶應系は学年の進級が厳しい。たとえば、慶應義塾普通部から慶應義塾高校、もしくは早稲田高等学院の中学部から高等学院に進学したとしよう。その際に、新しいクラスを見渡すと、「あれ、先輩の○○さんと△△さんがいる!」というようなことがある。つまり、先輩が進級できずに留年することがさして珍しくはないのである。

 とくに男子は、留年をそう気にしないケースも少なくなく、中にはその後、もう1年留年し「20歳で大学に進学できました」という剛の者もいる。概して女子は男子に比べると留年は少ないようだが、もし留年となってしまったら、男子と違いそのことを大いに気にして転校するケースも見られる。また、高校だけではなく、義務教育期間である中学段階でも、高校ほどではないが留年はある。




「警告ランプ」は進学校ほど頻繁に点滅しない

 当然、付属でなくても、併設大学のない進学校でも学業を怠っていると留年はありえる。ただ、進学校における留年の話はそれほど多くはない。というのも、進学校は格段に学習に対する学校からの声かけが多いからだ。

 「このままだと大変なことになるから勉強したほうがいいよ」という「警告ランプ」が点滅しやすいのは進学校だ(当然ちゃんとやっていればランプは点滅しない)。ざっくり言うと「付属色の強い大学系校:進学校」で1:5くらいの比率だろうか。言い方を変えると付属校だと、「まもなく留年です」「はい、留年です」と2段階くらいだということだ。保護者としては「ゆったりさせる」ために付属に入れていたのだから、この進級の厳しさには相当驚かされることになる。

 進学校だと、「まもなく~」と最後通告の「はい~」の間に、「頑張らないと大変なことになりますよ」「本当にまずいですよ」「本当に本当にまずいですよ」と3回くらいの注意喚起なり、何らかの救済措置があるのだが、付属校だと、いきなり最後通告になるということである(まあたとえですが)。だからこそ、付属色の強い大学系の学校に進学する際は、「ゆったりする」という幻想は捨てていただきたいのだ。



実は進学校のほうがゆったりできる

  • 2016年度から共学化される法政大学第二中学・高等学校
    2016年度から共学化される法政大学第二中学・高等学校

 一方、進学校の場合は、中高6年間というスパンのなかで各人が事情にあわせて育ってくれればいいというスタンスで生徒たちと向き合っているケースが多い。生徒によって伸びる時期が異なるから、その時期が来るまでじっくりと待ってくれる。とくに男子と女子では、伸びてくる時期が異なる。生徒の様子を見つつ、伸びそうになってきたら、「やればできるじゃないか!」と先生たちが励まして応援をしてくれるのだ。

 私学の先生にお聞きしたことをまとめると、男子は高校1年くらい、女子は中学2年と高校2年と二つ伸びる時期があるのではないか(もちろん、個人差があるが)。つまり、進学校は、前述した付属色の強い大学系の学校ほど、進級に対しては厳しくはないことが多い(もちろん、進学校の中でも厳しい学校もあることはある)。

 たとえば、進学校の場合は定期考査で赤点を複数回取ったとしても、追試なり個別補習なりの手厚いサポートを行い、なんとか進級させてくれることが少なくないのだ。逆に言えば、付属系では進学校ほどの手厚さはない。それが厳しさにつながっている。

 ざっと以上の理由から、実は「進学校の方がのびのびしている」という結論に私は行き着いている。



さらに「学部枠」にも縛られる…ポジティブに学ぶ気持ちで進学しよう

 大学系の私学の話に戻るが、無事進級できて、併設大学に進学できるところまで行けたとしても、今度はもう一つ問題がある。慶應義塾や日本大学のようにほぼすべての学部をカバーしていればまだいいが、多くの大学は万能ではなく、学部の種類が限られている。そのため、「本当は医学部に行って医者になりたい」と思っている生徒は、併設大学に医学部がない場合は、学部枠に縛られて医学部をあきらめるか、思い切って他大学受験をする選択を迫られる。ところが人は易きに流れやすいもの。目の前に併設大学があったとしたら、医学部をあきらめて適当な学部に内部進学しがちだ。

 また、希望学部があったとしても、各学部には多くの場合枠があり、希望通りに行くとは限らない。たとえば、早稲田高等学院は早稲田大学の正式な予科教育機関として創立された経緯があるため、学部枠は潤沢なのだが、これは例外だ。実際は、「本当は○学部に行きたいけれど、私の成績じゃ無理だから別学部にしよう」というようなことになってしまいがちだ。本当にそれでいいのか? 自分のやりたいことに向かって進んでいかないで心残りはないのか? 付属校を選ぶ際は、よく考えていただきたい。

 当然、進学校でも、希望大学、希望学部に合格しない場合もあるだろう。でも、少なくとも生徒自身の意志でチャレンジすることはできる。チャレンジするのとしないのとでは大違いだろう。価値観の問題もあるとは思うが、ここまで含めて志望校を選んだほうがよいだろう。

 いろいろと大学付属校のことを記してきたが、私は大学系の私立中高一貫校もすばらしいメリットを多々持っていると思う。高大連携や大学の施設の共有などは中高のみの進学校ではなかなかできない芸当である。それらの点は、高く評価している。

 ただ、繰り返しになるが、もしこの記事を読んでいる受験生が、大学系の学校を選ぶとしたら、6年間、のんびり過ごそうと思わずに、ポジティブに学ぼうという気持ちで進学していただきたい。そうでないと、とんでもないしっぺ返しをくらうことになるだろう。

 

プロフィル
井上 修
 1967年、愛媛県生まれ。横浜国立大を卒業後、91年、日能研に入社。同社の進学情報室長などを経て、中学受験誌「進学レーダー」(みくに出版)の編集長に。実際に足を運んで取材した学校の数は、300を超え、中学受験、および中高一貫校選びなどについての保護者の相談に数多く応じている。

読売新聞から引用
2015.10.27

中学受験 偏差値
中学受験 偏差値
サピックス、四谷大塚、日能研、早稲アカ
帰国子女
家事代行なび
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