「志望校に落ちた子」の親は「残念臭」を今消せ

 

2月下旬、神奈川県で高校受験した中学3年生の男子とその母親が心中した。教育熱心な母親で「結果」を憂慮しての行動だといわれる。しかし、他に方法はなかったのか。「受験は大事だが、人生のすべてではない」といった声があがっている。母親はどうすべきだったのか。受験カウンセラーでもある鳥居りんこ氏の提言は、高校受験だけではなく、中学受験や大学受験で「失敗」した子どもを持つ親必読である。

■第一志望校の合格者は「3人に1人」だけ

 2月1日より始まった東京・神奈川の中学受験入試が終了した。これで今シーズンの中学受験の日程がすべて終了したことになる(一部の学校の2次募集を除く)。この2月中旬から3月にかけては「中学受験産業」の今年度を振り返る「総括」*が行われるはずだ。

 「総括」と言うと、何やら労働組合やら政治活動を思い浮かべる方もおられるだろうが、この「総括」、受験プロ集団だけではなく、一般人である中学受験終了ホヤホヤのご家庭にもお勧めしたい。

 筆者注*総括=バラバラなものを整理し、ひとつにまとめること。それまでの活動の方針や成果を評価・検討する意味もあり、全体の結果などをまとめるという意味(「意味まとめ」より抜粋)。

 ご家庭の中には「総括」どころではなく、未だ寝たきりになっている母がいるお宅も多いかと思われるが、そういう母は無理に立ち上がらなくていい。寝ながら、これを見ればいいのだ。

 中学受験は「親子の受験」であるために、結果が伴わないと母は錯乱状態に陥る。第一志望合格者が3人に1人と言われているので、受験者の母の大半は5月の中間テストまでは立ち直れないのだ(中間テスト終了後に「寝ている場合ではない! 」と気が付き、瞬時に冬眠から目覚めるだろう。現実は「こっちの水も甘くない! 」のだ)。

 それは誰が何をどう言っても、立ち直れないものは立ち直れないので、好きなだけ泣くもよし、恨むもよし、何なら白装束に五寸釘を持って丑の刻参りをするもよし、自由だ。

 大失恋をしたのと同じ状態なので、解決法とするならば「時間薬」しかない。

 しかし、ショック状態の金縛りから半解凍くらいになってきた母はこの経験を次のステップに繋げるために、以下の総括を行ってみるといいと思う。

 

 

■心ない言葉で子どもを責めるなツブすな

 私は常々、中学受験の合格は「おまけ」みたいなもので、人生の大きな川の流れの中ではそんなに重要なものではないと主張している。なぜなら、12歳の受験。同じメンバーで別日に受験したとしたら、合格者の大半は入れ替わるとも言われているくらいの僅差の勝負なのである。

 中学受験は一朝一夕にできるものではないので、そのプロセスにこそ価値がある。(筆者注:中学入試問題は小学校の教室レベルを超える問題を出題することが多いので、大多数の中学受験生は小学3年生の2月より専門塾に通うことがもはや、当たり前になっている。つまり、3年間の塾通いが一般的で、長期戦になる)

 爆発的に身に付けたであろう知識、思考力、継続することの困難さ、目標に向かってコツコツと積み重ねてきた日々。

 それらにプラスして、最も大切なことは知的好奇心の獲得だ。

 「わかるって楽しい! 」

 このことがあなたの子どもの未来を明るく照らす。わが子はこの「ワクワク感」を経験したか?  子どもにはこれだけでいい。

 合格も不合格もサイコロの目くらいの違いでしかないので、そこを言い続けても意味がない。もし、あなたのお子さんが自分自身の力で解法を得た経験があるのなら、それだけでも中学受験の道を辿ったことは意味がある。わずか12歳で知ってしまった快感。「知的好奇心の芽生え」こそが人生の扉を果敢に開けて行く一歩になるだろう。

 せっかく芽生えたものを、心ない言葉でつぶさないでほしい。親がやるべきは、わが家の受験は「いい受験であったか? 」の振り返りである。

 中学受験は目の前で我が子が今、大きくなったという瞬間を目撃することを許される親にとってはたまらないギフトである。何もしなければ、日々はただ漫然と過ぎるが、多くの親は「この瞬間」を永遠に記憶にとどめることになるだろう。例えば……。

 

■子どもからもらった「ギフト」は何だったか? 

 ●「こんな成績で受験なんかやめちまえ! 」と怒鳴った親に「絶対にやめない! 」と言い切った日。
●運動会の練習もあって疲れ切っているのに、その足で塾に行き、さらに残業のように家で宿題を解こうとして、机に突っ伏した夜。
●塾の最終日、お迎えに出た母と共に夜空を見上げ、「ほら、ママ、冬の大三角が見える」と星座を説明してくれた夜更け。
●2月1日(受験初日)、受験会場に入るわが子の背中が妙に大きく見えたこと。
●2月2日、第一志望合格発表日、合格した友人に自分から駆け寄り「私はダメだったけど、おめでとう! 」と自ら言葉をかけたこと。
●2月3日、第一志望の中学受験終了後「A中に出した答案に悔いはない」と言い切った日。
●2月4日、不合格続きなのに涙を見せないと思っていたら、布団の中から嗚咽が聞こえてくる。それなのに、部屋から出てきたときには「明日は絶対に頑張る! 」と宣言したこと。
●2月5日、「塾、辞めずに続けてよかった」と言ったこと。
●2月6日、「やり切った! 」と笑顔を向けてくれたこと。

 あなたはもう数えきれないくらいのギフトをわが子からもらっている。こんなに強い子はいないと、こんなにいい子はいないとわが子を抱きしめたくなったろう。

 母はこれを確認しよう。

 (1)「母は孤高であれ! 」を実践できたか。
(2)「まさかのまさかのまさか校」まで考えた受験だったか。
(3)たくさんの学校に足を運び、自分の目で見たか。
(4)夫婦で協力できたか。
(5)体調を万全にしてきたか(インフルエンザ予防注射は家族必須)。
(6)受験中、子供の気力を維持させ続けられたか(「まだ終わりじゃねーだろ? 」と毎日自分にも言い続けたか? )。
(7)あいさつやお礼をすべき所をリストアップし、全てにきちんと礼儀をつくしたか。
(8)受ける学校に順位をつけず、「どこも良い学校」と本人に言い続けられたか。
(9)手続きミスのないように万全を期せたか。

 そして、一番、肝心なこと。

 (10)子どもの頑張りを声に出して認めたか。
(11)家族でお互いの健闘を称えあったか。

 もう、これだけでいい。家族で「いい受験だった」と思えたならば、それは家族の歴史を彩るかけがえのない1ページになる。

 これをご覧の読者の中には「うちは最後までやる気がないままで終了し、親へのギフトなんかなかった」とお怒りのご家庭もあるかとは思うが、それは誤解だと思う。

 親の望みどおりの結果が伴わなかった戦犯探しを「やる気のなさ」「自主性の欠如」に求めているに過ぎない。見るべきポイントはそこではない。

 結果はどうあれ、子どもは「受験する」という「勝負」をしたのだ。試験会場では誰にも助けてもらえないという「自分しかいない」という経験をしている。これは経験した者にだけ与えられる「人生のギフト」である。

 干支2巡目の最初のページが「自立を促す」という強烈な体験になっていることにこそ親は目を向けるべきなのだ。親はこの経験を生かしながら、24歳の干支2巡目終了までにわが子を親の元から完全に独立させ社会に出すということを責務としなければならない。

 「中学受験」はその最初の一歩なのだ。「総括」は未来に繋げる原動力にしなければならない。

 

■いい意味で「寝返る」と幸福がやってくる

 よく中学受験界のプロが、不合格という結果に立ち直れない親に対して「ご縁があったところが一番良い学校」というアドバイスを送り「くれぐれも入学予定の学校の悪口を言わないように」と語っているのを目にする。

 それは正しい。

 正しいのは正しいのだが、この文章の最後に、私は未だ金縛りが解けない母にこういう話をしておこう。

 題して「小早川秀秋のススメ」だ。

 超進学校のやや下に位置する学校での初めての保護者懇談会の席上。車座での自己紹介で、ある母は泣きながらこう言った。

 「本当はこんな席にいるはずもなかったのに……」

 周囲は目が点になったが、やがて学年も上がって行くころ、その母はこう言った。

 「もうね、ここ最高! やっぱりこの学校でよかったわ!? 」

 そして6年後、その母の子どもは日本最高峰という大学に入った。6年前のあの日のことは記憶から抹消したらしく、その母は喜々としてこう言った。

 「ここ(残念で入った中高一貫校)に入る運命だったのよ! 」

 私は密かにこの母を「小早川秀秋*」と呼んでいる。中高一貫校は「小早川秀秋」だらけだ。散々、文句を言って残念臭を漂わせて入学しようとも、途中で「寝返る」。ボロクソに言っていても、途中で豹変するのが「一貫校マジック」である。

 編集部注* 1600年の関ヶ原の戦いで西軍(豊臣側)を裏切り、東軍(徳川側)に勝利をもたらしたといわれる戦国武将

 私は未だ立ち直れない母はそれでいいと思う。無理に気持ちを抑える必要もないし、また努力で抑え切れるものでもない。ただ「寝返り」の時期を楽しみにすればいいのだ。

 私は言おう。戦いを終えたすべての「中学受験生の母たちへ」。

 母たち、中学受験、お疲れ様。本当に疲れたね。そして、卒業おめでとう。

 春から中学生母だね。

 

 

エッセイスト、教育・子育てアドバイザー 鳥居りんこ=文

 

 

2016.3.4 プレジデント

 

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